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製造業の「2025年の崖」―熟練工の引退とAIによる技能継承の新時代

Published: February 3, 2026Author: techandchips

日本の製造業が直面する「2025年の崖」。この言葉は、経済産業省が2018年に発表したDXレポートで提示されたキーワードだ。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進まなければ、2025年以降、最大で年間12兆円規模の経済損失が生じるリスクがあると警告している。

しかし、この「崖」にはもう一つの側面がある。それは、熟練技能者の大量引退による技術継承の危機だ。

数字が示す深刻な現実

製造業の就業者数は、この20年間で約157万人減少した。特に深刻なのは若年層(34歳以下)の大幅な減少だ。一方で、65歳以上の高齢就業者の割合は増加を続け、2023年には製造業全体の8.3%を占めるまでになっている。

経済産業省の「2025年版ものづくり白書」によると、技能継承に問題を抱える事業者の割合は、製造業で59.5%に達する。これは全産業平均の41.2%を大きく上回る数字だ。さらに、85%以上の製造業企業が「能力開発・人材育成に関する課題がある」と回答しており、最も多い課題は「指導する人材の不足」である。

ベテラン技能者が持つ「暗黙知」—長年の経験から培われた勘やコツ—は、従来のマニュアルや文書だけでは伝えきれない。そして、その知識を持つ人材が現場を去りつつある。

AIが変える技能継承のかたち

この課題に対し、AIを活用した新しいアプローチが広がり始めている。

生成AIによるナレッジの見える化

NECでは、PLMシステム「Obbligato」と大規模言語モデル(LLM)を連携させ、過去の製品開発で蓄積された技術情報にチャット形式でアクセスできる機能を開発している。ベテランに直接聞くように質問できる環境を、AIで実現する試みだ。

金型設計の現場では、熟練技術者のノウハウを言語化し、LLMを搭載したチャットボットで若手がいつでも参照できる仕組みを導入する企業が増えている。

映像解析による技能のデジタル化

ダイキン工業では、ろう付け作業において画像解析技術を活用している。熟練技術者と訓練者の動作をデジタル化して比較・分析することで、技能の統一基準を定め、効率的な技能伝承を実現している。

同様に、ブレインパッドが開発中の「作業動画解析AIエージェント」は、熟練工の作業映像をAIで解析し、動作の癖やコツを可視化する。匠の技をデータ化し、暗黙知を形式知に変換する取り組みだ。

全社的なAI活用の効果

パナソニックでは、2024年の1年間で生成AI活用により約186,000時間の業務時間削減を達成した。これは約90人分の年間労働時間に相当する。「全社員がAIを使いこなす」という方針のもと、教育と実践を両輪で進めている。

技術継承を成功させるために

AIは万能ではない。しかし、適切に活用すれば、熟練工の知識を次世代に橋渡しする強力なツールになりうる。

重要なのは、AIの導入自体を目的にしないことだ。まず「何を継承すべきか」を明確にし、ベテラン技能者がまだ現役のうちに、その知識やノウハウを言語化・映像化して蓄積する。AIは、その蓄積された知識を検索可能にし、必要なときに必要な形で若手に届ける役割を担う。

2025年の崖は、見方を変えれば、製造現場のあり方を根本から見直す機会でもある。人材不足を嘆くのではなく、人とAIがそれぞれの強みを活かして協働する新しいものづくりの形を模索する時期に来ている。

T&C

techandchips

techandchips provides AI solutions for manufacturers in the Kumamoto semiconductor cluster. We support equipment monitoring, predictive maintenance, and traceability for TSMC supply chain compliance.

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