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中国半導体企業「史上最高」の売上 — 規制が生んだ逆説と、その限界線

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中国半導体企業「史上最高」の売上 — 規制が生んだ逆説と、その限界線

2025年、中国の半導体企業が軒並み過去最高の売上を記録した。SMICは93億ドル、CXMTは130%増の80億ドル超、AIチップのCambricon は450%増で初の黒字転換。米国が「首を絞める」ほど、中国は「自力で呼吸する方法」を覚えたように見える。だが、この数字の裏には、もう一つの物語がある。 「記録」の中身を...

2025年、中国の半導体企業が軒並み過去最高の売上を記録した。SMICは93億ドル、CXMTは130%増の80億ドル超、AIチップのCambricon は450%増で初の黒字転換。米国が「首を絞める」ほど、中国は「自力で呼吸する方法」を覚えたように見える。だが、この数字の裏には、もう一つの物語がある。

「記録」の中身を分解する

数字だけ見れば圧倒的だ。

SMICの2025年通年売上は93.3億ドル。前年比16%増、稼働率は93.5%に達し、月産キャパシティは8インチ換算で初めて105万枚を突破した。中国国内売上比率は約90%。外に売れなくなった分、内側で回転率を上げた構図だ。

メモリのCXMTはさらに劇的だ。売上550億元超(約80億ドル)、前年比130%増。HBM(高帯域幅メモリ)の輸出が遮断されたことで、国内AI企業にとって「唯一の選択肢」となった。Morningstarのアナリスト Phelix Lee は「HBM輸出規制がCXMTを国内唯一の代替先にした」と指摘する。

そしてAIチップ設計のCambricon(寒武紀)。売上65億元(約9.4億ドル)、前年比450%増。設立以来初の通年黒字を達成し、純利益21億元を計上した。クラウドAIチップ「思元590」の大量出荷が転換点となった。

「米国の規制がこの数年間、中国の自給自足ドライブにロケット燃料を注いできた」— CNBC, 2026年4月3日

規制が「ロケット燃料」になったメカニズム

なぜ規制が成長を加速させたのか。その構造は三つの層に分かれる。

政府資金の集中投下。 2024年5月に設立された国家集積回路産業投資基金(通称「ビッグファンドIII」)は3,440億元(475億ドル)。過去最大規模であり、リソグラフィ装置やEDAツールなどボトルネック技術に重点配分されている。これに加え、15の地方政府が独自に約250億ドル規模の半導体投資ファンドを運営する。

「国産代替」需要の爆発。 中国の半導体装置国産化率は2024年の25%から2025年に35%へ跳ね上がった。エッチング装置で50〜60%、洗浄装置で50〜60%、レジスト剥離では80%以上。NAURAはグローバル装置メーカー8位に浮上し、AMECは5nmエッチング装置のTSMC検証を進めている。2027年の目標は70%だ。

成長セクターとの共鳴。 EV・新エネルギーインフラが成熟プロセス(28nm以上)の需要を押し上げ、AIデータセンター需要がNvidia代替としてのCambricon・Huawei Ascendチップの出荷を引き上げた。政府調達における国産チップ義務化も加速している。

見えにくい「天井」— 数字が語らない制約

しかし、この「史上最高」には構造的な天井がある。

EUVなき量産の壁。 SMICの7nm(N+2プロセス)はDUV露光で34回のパターニングを繰り返す。EUVなら9回で済む工程だ。歩留まりは改善して40〜50%に達したとされるが、粗利率は19.2%まで低下(前四半期22.0%)。5nm大量生産はコストがTSMC比で50%以上高くなるとの推定もあり、2026年以降も非現実的だ。

HBMの「5年以上の格差」。 TrendForce(2026年2月)は韓中メモリ格差を「5年以上、EUV制約下ではむしろ拡大する可能性がある」と分析した。CXMTのHBM3は2026年下半期までに歩留まり40%未満の見通し。TSV(シリコン貫通電極)やダイボンディングなど先端パッケージング装置も規制対象であり、アンダーフィルやEMCなどの核心素材は日本のResonac・Namicsが依然として支配的だ。

成熟プロセスの過剰生産リスク。 中国の成熟プロセス生産能力はグローバルの28%(2025年)から39%(2027年)に拡大する見通しだ。2024年に中国のIC平均価格は10%以上下落した。SMICやHua HongがUMCやVISなど台湾ファウンドリに大幅割引で攻勢をかけている。規制が作った内需は爆発したが、その内需が世界市場に溢れ出すとき、価格破壊のリスクを伴う。

日本の装置メーカーに迫る「静かな転換点」

この構図の中で、日本は微妙な位置にいる。

中国は日本にとって最大の半導体装置輸出先だった。2024年の対中装置輸出額は143億ドル。しかし2025年上半期は前年比2.9%減の63.99億ドルに転じた。東京エレクトロンの中国売上比率はFY2024の42%からFY2025の約35%へ低下する見通しで、AI向け装置売上比率をFY2026に40%まで引き上げることで中国減少分を相殺しようとしている。

信越化学工業は2025年11月、対中輸出が前月比42%急減した。日本のフォトレジストはグローバルシェア70%、EUVレジストでは95%を握る。規制が強化されるほど、この「静かな武器」の意味は増す。だが同時に、中国の国産化が進むほど、将来の市場を失うというジレンマも深まる。

「逆説」の先にあるもの

中国半導体の「史上最高」は本物だ。しかし、その成長エンジンの燃料は政府補助金と規制が生んだ閉鎖的内需であり、グローバル市場での自律的競争力とは別の話だ。

逆説の本質はこうだ。米国の規制は中国の「量」の成長を止められなかったが、「質」の天井を確実に下げた。7nm以下の量産、HBM3以降の世代、先端パッケージング — これらの領域では格差が縮まるどころか、拡大している兆候さえある。

一方、成熟プロセスの過剰生産は世界の半導体価格を構造的に押し下げる可能性がある。ここで問われるのは、「先端で勝てるか」ではなく、「成熟ノードの価格競争に巻き込まれずに、どこでポジションを取るか」だ。

TSMCが熊本第2工場を3nmに格上げした判断は、この文脈で読むべきかもしれない。成熟プロセスでの中国との価格競争を避け、先端ノードでの不可代替性を確保する — それが、この逆説の時代における一つの解答になりつつある。

参考資料

T&C

techandchips

techandchips provides AI solutions for manufacturers in the Kumamoto semiconductor cluster. We support equipment monitoring, predictive maintenance, and traceability for TSMC supply chain compliance.

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