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RISC-V、「実験」から「主流」へ——Qualcomm買収・NVIDIA10億コア出荷が示す不可逆の転換

Published: February 11, 2026Author: techandchips
RISC-V、「実験」から「主流」へ——Qualcomm買収・NVIDIA10億コア出荷が示す不可逆の転換

RISC-Vはもはや「いつか来る技術」ではない。Qualcommがサーバー級RISC-V設計企業Ventanaを買収し、NVIDIAが2024年だけで10億個のRISC-Vコアを出荷。自動車の新規設計25%がRISC-Vを採用する今、不可逆の転換点はすでに過ぎた。九州の自動車・産業用電子企業にとって、RISC-V対応は「するかしないか」ではなく「いつ始めるか」の問題だ。


📌 KEY POINTS

項目内容
🔓 QualcommVentana Micro Systems買収(2025.12)、Arm+RISC-V並行戦略へ転換
🟢 NVIDIA2024年にRISC-Vコア10億個出荷、Blackwell GPUに最大40コア搭載
🚗 自動車新規半導体設計の25%がRISC-V採用(SHD Group調査、年間成長率66%)
🇯🇵 日本ルネサスが自社開発RISC-V MCU発売、Rapidus+Tenstorrentが2nm AI開発
🏭 業界標準Bosch・Infineon・NXP等6社の合弁Quintauris、車載RISC-V標準化推進中

1. 3つの事実が語る転換点

RISC-Vは長年「将来の技術」と位置づけられてきた。だが2026年に入り、もはやそのフレーズは成立しない。

Qualcommの決断。2025年12月、Qualcommがサーバー級RISC-Vチップ設計企業Ventana Micro Systemsを買収した。Ventanaの最新チップVeyron V2は4nm・32コア・AIマトリクスアクセラレーター搭載のデータセンター級プロセッサだ。Qualcommはこれを機に、ArmとRISC-Vを「並行開発」する戦略への転換を公式に宣言した。

「NVIDIAは2024年に約10億個のRISC-Vコアを出荷した」

— RISC-V International, 2025

NVIDIAの選択。最新のBlackwell GPUには最大40個のカスタムRISC-Vコアが搭載されている。電力管理、セキュリティ、メモリ制御——GPU内部の頭脳を、NVIDIAは全面的にRISC-Vで構築した。2025年7月にはCUDAのRISC-Vサポートも発表し、x86・Armに続く第3のCPUアーキテクチャとして正式に位置づけた。

自動車・IoTの現実。SHD Groupの調査によると、自動車の新規半導体設計の25%がRISC-Vコアを含んでいる。年間成長率は66%。IoT分野でも新規設計の過半数がRISC-Vに移行している。


2. なぜ巨人たちが動いたか

数字はこう語っている。だが、業界で実際に聞こえてくるのは、もっと生々しい話だ。

ライセンス構造への不満。QualcommとArmの訴訟は業界に衝撃を与えた。カスタムコアを開発するほどロイヤリティ構造が複雑化し、イノベーションの足かせになるという認識が広がっている。RISC-Vはライセンス料ゼロ——チップ設計の自由度が根本的に異なる。

AIが求めるカスタマイズ。AI半導体に「汎用CPU」はもう通用しない。ワークロード特化型の命令セット拡張が必須となり、ISA(命令セットアーキテクチャ)をオープンに改変できるRISC-Vの価値が急上昇している。

「自動車の新規半導体設計の25%がRISC-Vコアを含む。年間成長率66%」

— SHD Group, 2026

地政学リスクの逆説。中国がRISC-Vを「制裁に左右されないアーキテクチャ」として大規模に推進している。これが逆説的にRISC-Vのエコシステム全体を加速させている。どの国も特定の企業やアーキテクチャに依存するリスクを再評価し始めた結果、オープンなRISC-Vへの関心が世界的に高まっている。


3. 九州の製造業への3つのインパクト

問うべきは「RISC-Vにいつ移行するか」ではない。「移行しないリスクをいつまで許容できるか」だ。

自動車部品サプライヤーへの波及

Bosch、Infineon、NXP、Qualcomm、STMicroelectronics、Nordic Semiconductorの6社が合弁会社Quintaurisを設立し、車載RISC-Vの標準化を推進している。リアルタイムプロセッサ向けリファレンス「RT-Europa」を発表し、ISO 26262 ASIL-D(最高水準の車載安全認証)にも対応済みだ。Tier-1がアーキテクチャを変えるとき、Tier-2以下への波及は時間の問題にすぎない。

産業用エッジデバイスの実用化

SpacemiTのK3 SoC(8コアRISC-V、最大60 TOPS AI性能)がUbuntu公式サポートを獲得した。工場現場のエッジAIデバイスでRISC-V+Linuxの組み合わせが実用段階に入ったことを意味する。予知保全やAI外観検査のハードウェア選定において、RISC-Vは現実的な選択肢になった。

日本企業はすでに動いている

ルネサスエレクトロニクスが業界初となる自社開発RISC-V CPUコア搭載の汎用MCUを発売。RapidusはTenstorrentと2nmロジックベースのRISC-V AI半導体を共同開発中だ。3月5日には東京大学でRISC-V Day Tokyo 2026 Springも開催される。


💡 製造業の視点:4つの示唆

  1. サプライチェーン変化の兆候を読む:Tier-1がRISC-Vで標準化を進めるということは、Tier-2以下にもRISC-V対応の波が来るということだ
  2. まずは情報収集から:RISC-V Day Tokyo 2026 Spring(3月5日)は最新動向を把握する好機
  3. 人材育成の先手を打つ:RISC-V開発人材はまだ希少。GCC/LLVMベースの開発環境に今から触れておくことが差別化要因になる
  4. エッジAIとの組み合わせを検討する:60 TOPS級RISC-V SoCが実用化した今、予知保全や検査システムの設計段階でRISC-Vを選択肢に加える価値がある

参考資料

  • Qualcomm, Ventana Micro Systems買収発表(2025年12月)
  • RISC-V International, "How NVIDIA Shipped One Billion RISC-V Cores in 2024"
  • SHD Group, RISC-V Market Penetration Report 2026
  • Digitimes, "RISC-V automotive commercial adoption"(2026年2月9日)
  • Renesas, 自社開発RISC-V CPUコア搭載 汎用MCU R9A02G021 発表
  • Tenstorrent / Rapidus, 2nm AIエッジデバイス半導体IP共同開発提携発表

今後の展望

RISC-Vの普及は、半導体アーキテクチャの「民主化」を意味する。Armの支配が揺らぐことでチップ設計の自由度が上がり、より多様なプレイヤーが半導体設計に参入できる環境が整いつつある。九州の製造業にとって、これは脅威ではなくチャンスだ。選択肢が増えるということは、自社の強みに合った技術を主体的に選べるということでもある。

T&C

techandchips

techandchips provides AI solutions for manufacturers in the Kumamoto semiconductor cluster. We support equipment monitoring, predictive maintenance, and traceability for TSMC supply chain compliance.

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