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ASML「1,000W」の衝撃 —— EUV光源が切り拓く、半導体製造の次の10年

公開日: 2026年2月25日著者: techandchips
ASML「1,000W」の衝撃 —— EUV光源が切り拓く、半導体製造の次の10年

画像出典:ASML

2026年2月23日、ASMLが一つの数字を発表した。

1,000ワット。

EUV(極端紫外線)リソグラフィの光源出力が、初めて4桁に到達した瞬間だ。2018年に量産が始まった時の250Wから、わずか8年で4倍。この数字が何を意味するのか、そしてなぜ製造業の現場にとって重要なのかを読み解いていく。

そもそもEUVとは何か

半導体の製造工程を一言で表すなら、「光で回路を刻む」だ。

シリコンウエハーの上に感光材(フォトレジスト)を塗り、設計された回路パターンを光で転写する。この工程を「リソグラフィ」と呼ぶ。刻める回路の細さは、使う光の波長で決まる。波長が短いほど、細い線が引ける。

従来のDUV(深紫外線)リソグラフィは波長193nm。7nm以下の微細加工では、同じ場所を何度も露光する「マルチパターニング」が必要になり、工程数とコストが膨らむ。

EUVは波長13.5nm——DUVの約14分の1だ。一回の露光で極めて細い回路を刻める。3nm、2nmといった最先端ノードは、EUVなしには成立しない。

では、その13.5nmの光はどうやって作るのか。

「錫の雨」と「レーザーの嵐」

EUV光源の仕組みは、直感に反するほど物理的だ。

真空チャンバーの中で、溶融した錫(スズ)のドロップレットが毎秒数万個射出される。そこに高出力のCO2レーザーを撃ち込み、錫を瞬時にプラズマ化する。太陽の表面温度を超えるこのプラズマが、13.5nmのEUV光を放射する。

放たれた光は、ZEISS製の超精密ミラー6枚で反射・集光され、ウエハーへ到達する。

問題は、この変換効率が極めて低いことだ。レーザーのエネルギーのうち、EUV光になるのは数パーセント。残りは熱やデブリ(破片)となる。光源のワット数を上げることは、半導体の微細化と同じくらい困難な技術課題だった。

1,000Wへの道——何が変わったのか

ASMLが1,000Wを達成した鍵は、2つの技術革新にある。

第一に、ドロップレットの発射速度を倍増した。

従来の毎秒約5〜6万個から、毎秒10万個へ。単位時間あたりに生成できるプラズマの総量が増え、光出力の上限が引き上げられた。

第二に、レーザーを3段階に分割した。

従来は1発のレーザーパルスで錫ドロップレットを直接プラズマ化していた。新方式では3段階のプロセスを踏む。

  1. 第1パルス:錫ドロップレットを平坦に押し潰す
  2. 第2パルス:平坦化した錫をさらに希薄化する
  3. 第3パルス(CO2レーザー):準備された錫を効率的にプラズマ化

毎秒10万個のドロップレットに対し、それぞれ3発のレーザーパルスを当てる。毎秒30万発のレーザーショットが真空チャンバー内を飛び交う計算だ。

この多段階方式により、エネルギー変換効率が30〜50%改善された。

「これは短時間だけ動く実験室のデモではない。顧客が求めるすべての条件下で1,000Wを安定的に生産できるシステムだ」— Michael Purvis, ASML EUV光源主席技術者

処理能力50%向上が意味すること

数字を整理する。

EUV光源の出力推移はこうだ。

光源出力備考
2018年250WEUV量産開始
2021〜22年500WNXE:3600D世代
2024〜25年600WNXE:3800E / High-NA EUV
2026年(実証)1,000W今回の発表
2030年(目標)1,000W量産商用化予定

現在のEUV最新モデル NXE:3800E の処理能力は毎時220枚(wph)。1,000Wの光源が量産機に搭載されれば、これが毎時330枚に向上する。50%の処理能力アップだ。

これは単なるスピードの話ではない。コスト構造が変わる。

最先端ノードでは、EUVの使用レイヤー数が急増している。

プロセスノードEUVレイヤー数
7nm5〜10層
5nm10〜15層
3nm15〜20層
2nm25層以上

2nmプロセスでは、ウエハー1枚あたり25回以上のEUV露光が必要になる。1回あたりの処理時間が短くなれば、25層すべてのコストが圧縮される。処理能力50%向上の効果は、レイヤー数が多い最先端ノードほど大きい。

ちなみに、EUV装置1台の価格は通常型(Low-NA)で約1億8,000万ドル、最新のHigh-NA型で約3億8,000万〜4億ドル。この投資を回収するには、1枚でも多くのウエハーを処理する必要がある。1,000Wの光源は、その投資回収を劇的に早める。

装置市場の地殻変動

EUVの進化は、装置メーカーに空前の好況をもたらしている。

2026年、グローバル半導体装置市場は1,390億ドルに達する見通し。過去最高を更新する — SEMI, 2026年2月

ASML自身の業績が、この好況を象徴している。2025年通期の売上高は327億ユーロ(過去最高)、受注残は388億ユーロ——2027年まで埋まっている計算だ。

日本の装置メーカーも、この恩恵を受けている。

東京エレクトロンは、EUV工程に不可欠なコーター/デベロッパー(感光材の塗布・現像装置)で世界シェア100%を握る。FY2026の売上予想は2兆4,100億円(過去最高)。

アドバンテストは、AIチップ需要の急拡大を背景に、半導体テスト装置で過去最高を更新中だ。FY2026の9ヶ月累計売上は8,005億円(前年同期比46.3%増)、営業利益は3,460億円(同110.8%増)。

レーザーテックは、EUVマスク(フォトマスク)検査装置でほぼ独占的な地位を持つ。EUVリソグラフィが普及するほど、マスク検査の需要も拡大する。

SEAJ(日本半導体製造装置協会)は、2026年度の日本製装置販売額を5兆1,249億円と予測。初めて5兆円の大台を超える。

熊本と千歳——日本の現場にとっての意味

この技術革新は、日本の半導体製造拠点と直結している。

TSMC熊本(JASM)のFab 2は、当初6nmの予定だったが2026年2月に3nmへの格上げが発表された。3nmプロセスにはEUVが不可欠であり、1,000Wの光源が量産化されれば、Fab 2の生産効率と収益性が大きく向上する。

Rapidus(千歳)には、2024年12月に日本初のASML製EUV装置が搬入された。2nmプロセスの試作を進めており、2027年の量産開始を目指している。2nmは25層以上のEUV露光を必要とするため、光源出力の向上は生産コストに直結する。

つまり、ASMLの1,000W達成は、遠いオランダの研究所の話ではない。熊本と千歳の工場が将来使う装置の性能を決める出来事だ。

40年の執念が作った独占

最後に、一つ押さえておくべき事実がある。

ASMLは、EUVリソグラフィで世界シェア100%を握っている。競合はゼロだ。

この独占は偶然ではない。EUV技術の実用化には、1980年代半ばの基礎研究(日本の木下博雄氏が最初のEUV像を投影)から数えて約40年を要した。その間、ASML、ZEISS(ドイツ、光学系)、Cymer(米国、光源、後にASMLが買収)の3社を中心に、国際的な研究開発投資が続けられた。

日本のギガフォトン(コマツ子会社)もEUV光源の独自開発に挑み、108Wの連続出力を達成したが、量産レベルには至らず開発を終了している。中国もEUVプロトタイプの開発を進めているが、ASMLに10〜15年の技術差があるとされる。

この独占構造は、半導体産業の最大の「チョークポイント」の一つだ。そしてASMLの技術が進化するたびに、その独占は強化される。1,000Wの達成は、追随者との距離をさらに広げた。

終わりに

250Wから始まったEUVの量産は、8年で1,000Wに到達した。ASMLはさらに1,500W、2,000Wへのロードマップを示している。

この数字の進化が意味するのは、最先端半導体の製造コストが下がり、生産量が増えるということだ。3nmや2nmのチップがより手頃に、より大量に供給される未来が近づいている。

製造業の現場でAIやエッジコンピューティングを導入しようとするなら、その「脳」となるチップの供給条件を左右する技術が、いま新たな段階に入ったことを知っておくべきだろう。

毎秒10万個の錫の粒に、毎秒30万発のレーザーが撃ち込まれている。その一つひとつが、半導体の未来を0.01ミクロン単位で削り出している。

参考資料

T&C

techandchips

techandchipsは熊本半導体クラスターの製造業向けAIソリューションを提供しています。設備モニタリング、予知保全、トレーサビリティなど、TSMCサプライチェーン対応を支援します。

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