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RISC-V「25%」の衝撃 —— x86・ARM二強時代は、静かに終わった

公開日: 2026年2月26日著者: techandchips
RISC-V「25%」の衝撃 —— x86・ARM二強時代は、静かに終わった

2026年1月、半導体業界に一つの数字が刻まれた。RISC-Vのグローバルプロセッサ市場シェア——25%

かつてカリフォルニア大学バークレー校の研究室から生まれた「もう一つのCPUアーキテクチャ」が、x86(Intel/AMD)とARM(Arm Holdings)に次ぐ「第三の柱」として公式に認知された瞬間だ。

しかし、この数字の本当の意味を理解するには、25%の「中身」を見なければならない。

25%を動かした3つの「賭け」

まず、最大のインパクトはQualcommだ。2025年12月、同社はRISC-Vサーバーチップ設計企業Ventana Micro Systemsを24億ドル(約3,700億円)で買収した。

これは単なる技術投資ではない。QualcommはArmとのライセンス訴訟で2025年1月に勝訴したが、その後もArmとの関係は悪化の一途を辿っている。Ventana買収は、Armへの依存から脱却するための「独立宣言」だ。Qualcommは買収で得たVeyronコアを基盤に、「Oryon-V」ロードマップを策定。自動車からデータセンターまで、ロイヤルティフリーの自社プラットフォームを構築しようとしている。

次にMeta。同社はRISC-V特化のAIスタートアップRivosを買収し、自社のAI学習・推論アクセラレータ「MTIA」をRISC-Vベースに再設計し始めた。巨大テック企業が自社AIインフラの「頭脳」をオープンアーキテクチャに切り替える——この判断の重みは計り知れない。

そして中国。米国の輸出規制でx86もArmも「地政学リスク」となった今、北京はRISC-Vを半導体主権の切り札に据えている。AlibabaとHuaweiが主導する「香山(XiangShan)」プロジェクトには数十億ドルが投じられ、すでに中国のハイエンドデータセンターや5Gインフラで稼働している。

RISC-V Internationalの本部はスイス・ジュネーブに置かれており、米国商務省の直接管轄外に位置する。これが中国にとって「地政学的に中立なアーキテクチャ」として選ばれた最大の理由だ。

「クルマの頭脳」が書き換わる

25%の内訳で見逃せないのが自動車分野だ。RISC-Vは新規設計の25%を占め、IoTでは55%に達している。

その中心にいるのがQuintauris——Bosch、Infineon、Nordic Semiconductor、NXP、Qualcomm、STMicroelectronicsの6社が設立した合弁企業だ。2026年1月、QuintaurisはRISC-V初のリアルタイム自動車向けプラットフォーム「RT-Europa」を発表した。

RT-Europaは、低遅延・予測可能な実行と高信頼性を実現し、現在の安全要求の厳しい自動車システムからRISC-Vへのスムーズな移行を可能にする。
—— Quintauris公式発表、2026年1月

ソフトウェア定義車両(SDV)への移行が加速する中、車載ECUのアーキテクチャ選択は単なる技術問題ではない。ライセンスコスト、サプライチェーンの自律性、そして将来のカスタマイズ自由度——これらすべてにおいてRISC-Vは合理的な選択肢になりつつある。

InfineonはRISC-Vベースの新しい車載マイコンファミリを開発中で、同社の主力ブランド「AURIX」に組み込まれる予定だ。自動車業界の「標準アーキテクチャ」が書き換わる可能性が、現実味を帯びてきた。

データセンターとAI——最後の砦に挑む

RISC-Vの弱点は、長らく「性能」だった。しかし、その常識も崩れつつある。

SiFiveは2026年1月、NVIDIAのNVLink Fusionを自社のデータセンター向けRISC-Vプロセッサに統合すると発表した。NVIDIAのGPUと直接接続し、コヒーレントな高帯域インターコネクトでAIワークロードを処理する——これはRISC-Vがデータセンターの「一等市民」になる第一歩だ。

ハイエンドArmコアとRISC-V CPUコアの性能差は縮小しており、2026年末にはほぼ同等に達すると予測されている。

Tenstorrentは、業界初となる8ワイドデコーディングのRISC-Vコアを開発中で、128コアのHPCプロセッサとしてデータセンター向けに投入する計画だ。調査会社Semicoは、RISC-V搭載チップが年率73.6%で成長し、2027年までにAIチップだけで250億個、売上2,910億ドルに達すると予測している。

日本の「静かな空白」

ここまでの流れの中で、一つ気になるデータがある。

日本でRISC-V開発を積極的に進めているのは、デンソーとルネサスの2社にほぼ限られる。2026年春には「RISC-V Day Tokyo」が開催予定で、日本でもオープンISAへの関心は確実に高まっている。しかし、Qualcomm、Meta、Alibaba、Infineonといったグローバルプレイヤーが数千億円規模で動いている現実と比べると、その規模感の差は否めない。

特に熊本を中心とした半導体クラスターにとって、この動きは無視できない。TSMCの工場が最先端ファウンドリとして稼働し始める2028年に向けて、製造する「何を」の部分——つまりチップ設計のアーキテクチャ——が世界的に変わろうとしている。ファウンドリの能力だけでなく、その上で走る設計エコシステムをどう取り込むかが、次の競争力を左右する。

「設計図がオープンになる」とは何を意味するか

RISC-Vの本質は、「無料のCPU」ではない。それは「設計の自由」だ。

ArmやIntelのライセンスに縛られず、自社の用途に最適化したプロセッサを設計できる。AI推論用、車載リアルタイム制御用、IoTセンサー用——それぞれに特化したカスタムシリコンを、ロイヤルティなしで作れる。

RISC-V技術市場は2024年の1.74億ドルから2032年に100億ドル規模に成長すると予測されている。年平均成長率は73.6%。
—— Semico Research

この「カスタマイズの自由」が最も価値を発揮するのは、まさに製造業の現場だ。汎用チップでは過剰な機能にコストを払い、不足する機能をソフトウェアで回避する——そんな時代が終わろうとしている。

半導体業界が1兆ドル市場に向かう2026年。「何を作るか」だけでなく「どのアーキテクチャで作るか」が、企業の競争力を決める新しい軸になった。RISC-Vの25%は、その転換点を示す数字だ。

参考資料

T&C

techandchips

techandchipsは熊本半導体クラスターの製造業向けAIソリューションを提供しています。設備モニタリング、予知保全、トレーサビリティなど、TSMCサプライチェーン対応を支援します。

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