設備総合効率(OEE)は装置産業では別物になる|JIPMが公式にそう書いている

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設備総合効率(OEE)は装置産業では別物になる|JIPMが公式にそう書いている

JIPMは、自ら公開しているOEEの計算式に但し書きを一行添えています。装置産業では三つの要素の定義が異なる、と。指標を作った側が、自分の式には適用範囲があると書いた。半導体側の物差しはSEMI E10とE79という別々の有料規格に分かれ、E10が定める六つの装置状態のうち、SEMIが要旨で名前を明かしているのは...

JIPMは、自ら公開しているOEEの計算式に但し書きを一行添えています。装置産業では三つの要素の定義が異なる、と。指標を作った側が、自分の式には適用範囲があると書いた。半導体側の物差しはSEMI E10とE79という別々の有料規格に分かれ、E10が定める六つの装置状態のうち、SEMIが要旨で名前を明かしているのは「故障」を指す一つだけです。私たちは同じ「稼働率」「OEE」という一語を、どの文書の定義かを添えずに使っている。指標を並べる前に、自社の定義がどの文書に紐づいているかを確かめる。


30秒でわかる「稼働率」の前提

項目内容
ひとことでOEEは一つの定義ではない。JIPMが無料で公開する計算式と、SEMI E79が有料PDFで定める計算式が、別々に存在する
工場での意味自社の稼働率が他ライン・他社・装置サプライヤの数字と比べられるかは、どの文書の定義を使っているかで決まる
なぜ今設備データの収集が容易になり、指標を並べる場面が増えた。並べる前に、定義が同じかを問う段階に来ている
最初の一歩自社の稼働率とOEEの定義が、どの文書のどの区分に基づいているかを一枚に書き出す
本稿で扱わないことSEMI E10・E79の有料本文にしか書かれていない計算式と状態名。公開されている範囲だけを書く

「うちの稼働率」が、隣のラインと比べられない理由

稼働率の話をすると、数字はすぐ出てきます。出てこないのは、その分母の出典です。

段取り替えの時間は止まっている扱いなのか。休日と昼休みは分母に入るのか。装置が動いていて不良を出していた時間は、どちらに数えるのか。答えは工場ごとに違い、違ったまま同じ「稼働率」という一語で呼ばれています。

これが表に出るのは比較の場面です。装置サプライヤが提示する稼働率、本社が集計する稼働率、隣のラインが朝会で読み上げる稼働率。三つの数字が並んだとき、どれが高いかを議論する前に、三つが同じ物差しなのかを誰も確かめていない。

指標を疑えという話ではありません。指標に出典を書き添えろ、という話です。そして出典を書き添えようとした途端、その出典が思ったより厄介だと分かる。


JIPMのOEEは、JIPMが作った指標だと本人が書いている

日本の現場で使われているOEEは、JIPM(公益社団法人日本プラントメンテナンス協会)がTPMのために独自に作った指標です。本人がそう書いています。

JIPMは1971年にTPMを提唱した団体です。公式ページの記述は、こうなっています。

「設備総合効率(Overall Equipment Efficiency;OEE)は、主に自動化ラインを中心とした設備保全(設備効率化)に関する代表的な指標(KPI)です。JIPMがTPMを開発・普及する中で独自に生み出した指標ですが、OEEは、IATF16949やISO22400-2:2014にも記載され、TPMの導入にかかわらず、国内外の企業で活用されています。」

出典:JIPM「TPMとは」

独自に生み出した、と自ら書いている。出自はTPMの活動指標で、そこから外へ広がった指標だという整理です。

計算式も公開されています。JIPMの図表「OEEの定義と計算式」にある式は、こうです。

「時間稼動率×性能稼動率×良品率=基準サイクルタイム×良品数量/負荷時間×100」

出典:JIPM「OEEの定義と計算式」

以下、JIPMの図表からの引用と、そこで定義された用語は原文表記の「稼動」、本稿の地の文は「稼働」で通します。

同じ図表が三要素も定義しています。時間稼動率は稼動時間/負荷時間、性能稼動率は正味稼動時間/稼動時間、良品率は価値稼動時間/正味稼動時間。ここまでは、誰でも無料で読める。


「装置産業では定義が異なる」と書いたのは、定義を作った側だった

JIPMの計算式には適用範囲がある。そう書いたのは外部の批判者ではなく、JIPM自身です。

「装置産業では時間稼動率、性能稼動率、良品率の定義が異なるため、2つ目の計算式が異なります」

出典:JIPM「OEEの定義と計算式」

丁寧に読みます。差が出るのは掛け算の三要素の定義で、その帰結として等式の右側、基準サイクルタイム×良品数量/負荷時間×100が変わる、と書いてある。OEEという指標名は共通のまま、中身が入れ替わる構造です。

この一行の重さは、書いた主体にあります。OEEを独自に生み出したと宣言している当の団体が、自分の計算式には適用範囲があると、同じ紙の上で明示した。

ただし、この一枚に書かれていないことがあります。装置産業に何が含まれるのか、その線引きです。自社の工程がここに入るのかどうかは、この図表だけでは判定できない。この一行から持ち帰るべきなのは、判定できないという事実のほうです。「うちはJIPMのOEEで測っています」と言うとき、装置産業向けに読み替えた式なのか、そうでないのか。その一段が抜けたまま数字だけが流通している現場は、珍しくありません。


半導体側の物差しは、二つの別々の規格に分かれている

SEMIの側では、装置の状態を測る文書と、生産性を測る文書が分かれています。

一つがSEMI E10。正式名は Specification for Definition and Measurement of Equipment Reliability, Availability, and Maintainability (RAM) and Utilization。現行版はE10-0422です。要旨は基本測定基準を四つの群に分けて挙げます。§2.3.1が信頼性、§2.3.2が有用性、§2.3.3が整備性、§2.3.4が利用性(日本語の用語はE10-0312の公式訳による)。

もう一つがSEMI E79、現行版はE79-0422。要旨はわずか二文で、この記事に効くのは二文目です。

"This Specification defines metrics and calculations for measurement of equipment productivity, including overall equipment efficiency (OEE)."
(本規格は、設備総合効率(OEE)を含む装置生産性の測定のための測定基準と計算を定義する)

出典:SEMI E79-0422 Abstract(SEMI Store)

OEEはこちらに入っています。E10ではない。二つが別文書であることは、両方のストアページが互いを Referenced SEMI Standards(別売の参照規格)として挙げていることからも読み取れます。参照はし合うが、同じ文書ではない。

現場の言葉に直すとこうなります。装置がどの状態にあったかを数えるルールがE10、その状態から生産性とOEEを計算するルールがE79。片方だけを見て「SEMIの定義で測っています」と言うと、話が半分ずれる。


SEMIが要旨で名前を明かす装置状態は、故障ただ一つ

E10の要旨は、六つの状態を定義すると書きながら、名前を一つしか出しません。

"This Specification defines six mutually exclusive, basic equipment states for all of the conditions and associated periods of time for an equipment system during an observation period. One equipment state called the unscheduled downtime state (UDT) defines a 'failed' condition for an equipment system."

出典:SEMI E10-0422 Abstract §2.1(SEMI Store)

日本語版(E10-0312、Superseded)の公式訳も同じ構造です。要旨はこう書いています。「本書では,あらゆる装置状況および時間が必ずどこかに類別される6つの互いに相容れない唯一の基本的な装置状態を定義している。計画外ダウンタイムと呼ばれる状態は,装置システムの「故障」状態と定義される。」(SEMI Store掲載、E10-0312日本語版の要旨)

六つのうち、要旨が名前を明かすのは計画外ダウンタイム、すなわち故障の状態一つだけ。残る五つの名前は、有料PDFの本文側にあります。

web上には六状態を列挙した解説記事が複数あります。本稿では採りません。確認した二次解説は七つの名前を並べており、要旨が明記する「six」と数が合わない。数の合わない列挙を自社の定義表に写せば、その表が次の誤解の出発点になります。

ここで、JIPM側との対比が効いてきます。先ほどの図表には、故障ロス、段取・調整ロス、刃具交換ロス、立ち上がりロス、チョコ停・空転ロス、速度低下ロス、不良・手直しロス、SD(シャットダウン)ロスという番号つきのロスが、名前ごと並べてある。無料で読める一枚に、八つ全部が書いてある。片や六つのうち一つ、片や八つ全部。どちらが優れているという話ではなく、現場が定義を共有できるかどうかを分けているのは、この公開のされ方です。なお両者は別々の体系であり、E10の六状態とJIPMの八大ロスが対応するという根拠はありません。

工場の言葉に直すと、こうです。「うちは計画外ダウンタイムをこう数えています」まではE10の用語で会話が成り立つ。それ以外の停止区分については、相手と自分が同じ規格本文を読んでいるかどうかから確認する必要がある。


MTBFという同じ略語が、片方だけ定義を公開している

E10の要旨は、信頼性の測定基準として三つの略語を挙げます。定義は書いていません。

§2.3.1に並ぶのは、MTBF、MCBF、MWBFという三つの名前だけ。順に mean time / mean cycles / mean work between failures です。どう計算するかは本文の側にあります。整備性の§2.3.3も同じ書き方で、MTTR、MTTPM、MTOL、TFR、impairment rate という名前が並ぶ。

JIPMの側は、同じ略語に定義を添えて公開しています。

「MTBFは、「故障から故障までの動作時間の平均」であり、「平均故障間動作時間」または「平均故障間隔」と呼ばれ、設備の信頼性(壊れにくさ)を表し、故障の頻度を測る指標です」

出典:JIPM「TPMとは」

同じ四文字が、片方では名前だけ、片方では定義つきで流通している。保全課がExcelで出しているMTBFと、装置メーカーの受入仕様書に書かれたMTBFが、同じ式で計算されている保証はどこにもない。社内資料のMTBFがどちらを写したものかは、書いた人に聞かないと分かりません。二つが同じ計算になるのかどうかも、公開されている範囲からは確かめられない。確かめるには、規格を買う必要があります。

規格会員非会員
E10-0422(英語・現行版)286ドル380ドル
E10-0312(日本語版・Superseded)176ドル231ドル
E79-0422(英語・現行版)148ドル193ドル

いずれも規格1件あたり、SEMI Store表示の米ドル価格です。


日本語で読める公式訳は、2011年に書き換えられた版だけ

日本語で公式に読めるE10は、Supersededと表示された旧版だけです。現行版の訳はストアにありません。

SEMIストアで日本語版のE10を引くと、並んでいる版はE10-0312。要旨の冒頭には「注意: 本文書は,2011年,全面的に書き換えられた。」とあります。本稿執筆時点(2026年9月)で、現行版E10-0422の日本語訳は見当たりません。「SEMI E10準拠」と書かれた定義書を受け取ったとき、版数を聞き返した人がどれだけいるでしょうか。

E10には complete rewrite の表記がついた改訂が複数回あります。Revision Historyに並ぶE10-0312とE10-0814が、それです。社内の指標定義書に「SEMI E10準拠」と書いてあっても、どの版を写したのかで中身が変わり得る。版数まで書いてある定義書を、私はあまり見たことがありません。

本質は、規格を買っていないことではありません。買った人と買っていない人、英語で読んだ人と旧版の訳で読んだ人が、同じ会議で同じ「稼働率」という一語を使っていることです。


月曜日にやること

規格を買う前に、今ある定義を一枚に書き出す。装置にもシステムにも触りません。

確かめること見る場所書き出す内容
稼働率の分母社内の指標定義書、MES・SCADAの集計設定何を負荷時間としているか。段取り替え・休日・昼休みの扱い
OEEの計算式同上JIPMの三要素の式か、別の式か。装置産業向けに読み替えているか
停止の区分装置ログ、保全記録の分類コード計画外ダウンタイム(故障)に何を入れているか
出典と版数参照している文書そのものSEMI E10なら版数(現行はE10-0422)、JIPM式なら公開ページ
比較相手他ライン、装置サプライヤ、本社集計相手が同じ定義かを確認したか。未確認なら未確認と書く

埋まらない欄が必ず出ます。その空欄が、次に問い合わせる相手の一覧になる。作業に必要なのは既存の定義書と集計設定だけで、新しい規格も新しいシステムも要りません。予知保全をどこから始めるかも、SECS/GEM非対応の装置をどう繋ぐかも、出発点は同じでした。今ある装置とシステムが何を持っているかを、先に棚卸しする。指標も同じです。

問うべきは「うちの稼働率は高いか」ではありません。「うちの稼働率は、誰の定義で高いのか」です。定義が特定できて初めて、その数字は他人と共有できる情報になる。共有できない数字を何年積み上げても、比較にも改善の根拠にもならない。


参考資料

T&C

techandchips

techandchipsは、今ある装置とシステムを活かす工場自動化で熊本半導体クラスターの製造業を支えています。装置・システム連携(EAP/MES)、見える化・予知保全、トレーサビリティ、AI文書自動化まで一貫して対応します。

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